2018年10月23日火曜日

ピケ(piquet)

16 世紀からある古いゲームです.山札交換と手役宣言で相手の手が読めることが多いので,カード勝負で得点するために手役の一部を隠す作戦があるなど,戦術的です.主な情報源は,古いフランスの文献をもとにしたルールを掲載している“忘れ去られたゲームのアカデミー (L’Académie des jeux oubliés)” (academiedesjeux.jeuxsoc.fr) です.ピケは,トランプゲームとしては極めて例外的に,大きなルールの相違がほとんどありませんが,変化の可能性を示すために,古いイギリスの文献を主にした David Parlett 氏の“Historic card games” (www.davidparlett.co.uk/histocs) のルール記述との違いを追記しました.

(2013.7.30) 複数の続き (セカンス) と組 (トロワ,カトルズ) を得点できる条件を,点数ではなく,宣言の強さに修正しました.
(2013.7.30) David Parlett 氏のルールとの違いを追記しました.
(2018.10.23) 「古いルール」が19世紀中ごろまでのルールであることを追記しました.手役の文章を書き直しました.
(2018.10.27) 手役の文章をさらに添削し,また 1 番手は点の手役を宣言しないことはできないので,2 番手のルピックの例を改めました.

人数とカード


2 人.4 つの印ごとに 8 枚の計 32 枚.強い順に 1(A),R(K),D(Q),V(J),10,9,8,7.切札はありません.ピケは400年間も流行したにもかかわらず両大戦間に急激に衰退し,20 世紀中頃には遊ぶ人がほとんどいなくなってしまいましたが,南欧以外のヨーロッパ大陸の国々では,このゲームから始まり,現代の国民的ゲームに至るまで 32 枚を使うものが多いので,普通に売られているトランプも 32 枚組が多いです.

目的


複数の手の合計点で,決められた点に先に到達することです.

順番決め


カット,または 1 枚引いて,低いカードを引いた方が,最初の配り手です.配り手の相手が 1 番手,配り手は,2 番手です.以後の手では,ゲームの終了まで,交互に配り手をつとめます.

カードを配る


配り手は,カードをよく切り,相手にカットさせてから,相手自分の順で交互に 2 枚または 3 枚ずつ,12 枚の手札を配り,残り 8 枚を山札 (タロン,talon) として 2 人の中央に 1 枚ずつずらして伏せて置きます.

絵札なし(カルト・ブランシュ,cartes blanches)


配られた直後の手札に 1 枚も絵札 (K,Q,J) がない場合,1 番手は自らの手札交換の前に,2 番手は 1 番手の手札交換の後,自らの手札交換の前に,絵札なしを宣言できます.このとき,手札をすばやく 1 枚ずつ表向きに重ねて置き,絵札がないことを相手に示します.絵札なしの点数は,10 点です.

手札交換


1 番手は,手札を少なくとも 1 枚,最大で 5 枚,枚数を言って捨て,同じ枚数の山札を上から順に取ります.手札を 5 枚交換しない場合,5 枚交換で手にできた山札をのぞき見できます.

2 番手は,1 番手の後に,手札を少なくとも 1 枚,最大で山札の残りだけ捨て,同じ枚数の山札を上から順に取ります.2 番手は,残りの山札をのぞき見できます.1 番手は,最初のカード勝負に出す手札の印を告げれば,残りの山札を公開できます.なお,イギリスの文献に基づく David Parlett 氏のルール記述は,2 番手が手札を 1 枚も捨てないことを認め,残りの山札を 1 人で見ることは認めず,見たければ 2 人が見えるように公開しなければならないとします.

捨てたカードは右の手元に伏せて置き,ゲームには使いません.David Parlett 氏は,逆に、自分が捨てたカードはいつでも見てよいとします.

1 番手に絵札がないとき,2 番手が 1 番手の手札を見て手札を交換できないように,絵札なしの宣言,および手札交換を次の手順で行います.(1) 1 番手は,絵札なしを宣言するとともに,交換する手札の枚数を 2 番手に告げる.(2) 2 番手は手札交換で交換する手札を捨てる.(3) 1 番手は手札をすばやく 1 枚ずつ表向きに積み,絵札がないことを示す.(4) 1 番手は告げた枚数の手札を捨て,同じ枚数の山札を取る.(5) 2 番手は,自分が捨てた枚数の山札を取る.David Parlett 氏は,この複雑な手順に言及していません.

手役の宣言


1 番手は,点 (ポアン,point),続き (セカンス,séquence),組 (トロワとカトルズ,trois et quatorze) の順に手役を宣言します.宣言の手順は,次の通りです.

1 番手は,手役を宣言します.

2 番手は,1 番手の宣言に勝てる手役があれば宣言を拒み,なければ宣言を認めます.同じ手役があれば同点とします.宣言を認める,拒む,同点とするための言葉は,互いに理解できるなら,何でも構いません.いい/だめ/あいこ,OK/NG/同じなどでもいいでしょう.フランス語では,"C’est bon(セボン)","mieux(ミユ,[自分の方が]もっと良いの意)","égal(エガル)"です.

1 番手は,最強の手役を宣言しなくても,続きと組は手役を隠しても構いません.2 番手も,最強の手役と比べなくても,手役を隠しても構いません.

1 番手は,2 番手が認めた手役の点を得ます.2 番手は,拒んだ手役と 1 番手が宣言しなかった手役を,1 番手が最初に手札を出した後,自分が最初の手札を出す前に,申告して得ます.続き (セカンス) 役の宣言が認められた 1 番手と,続き役の宣言がなかったか拒んだ場合の 2 番手は,宣言に勝った続き役に勝てない続き役が手にあれば,その点も得点できます.宣言・拒否に使わなかった続き役は得点しなくても構いません.組役も,同様に,宣言に勝った組役に勝てない組役はすべて得点できます.どの手役も,最後まで同点なら,2 人とも点を得られません.なお,David Parlett 氏のルール記述は,宣言で勝ったもの以外の続き役と組役の得点に役の強弱の制約がありません.

点の役と続き役のカードは,得点するときに相手に見せます.組役は,普通は,公開しないでも分かるので,公開の義務がありませんが,相手が要求したら,得点したカードを見せなければなりません.

手役 1:点 (ポアン, point)


現代のルールでは,枚数が多い印のカードの枚数を宣言します.同点なら,A=11点,K,Q,J=10点,それ以外=額面として換算した点数の合計を宣言します.宣言/申告した印の枚数が得点になります.古いルール(19世紀中ごろまで)では,はじめから点数を宣言し,点数の 1 の桁を四捨五入し 10 で割った値を得点します.ポアンは,17 世紀前半までは,ロンフル (ronfle) と呼ばれました.

手役 2:続き (セカンス, séquence)


同じ印で強さ順に 3 枚以上続いているカード (例:スペードのA,K,Q,J) の枚数とその中で最強のカードをまとめて宣言します.そのようなカードがないときまたは公表したくないときは,続き役がないと宣言します.David Parlett 氏のルールでは,枚数を宣言して,同点なら最強のカードの強さを宣言します.印は比較しません.1 つあたりの得点は,3 枚続き (ティエルス,tierce) が 3 点,4 枚続き (カトリエーム,quatrième) が 4 点,5 枚続き (カント,quinte) が 15 点,6 枚続き (セジエーム,seizième) が 16 点,7 枚続き (ディス・セティエーム,dix-septième) が 17 点,8 枚続き (ディズ・ウィティエーム,dix-huitième) が 18 点です.

手役 3:組 (トロワとカトルズ, trois et quatorze)


A,K,Q,J,10 のどれかが 3 枚以上あるとき,強さ (A,K など) と枚数 (3 または 4) を宣言します.9 以下の組は,この役になりません.組がないときまたは公表したくないときは,何も言わずにカード勝負に移ります.David Parker 氏のルールでは,枚数を宣言して,同点なら強さを比較します.1 組あたりの得点は,3 枚組 (トロワ) が 3 点,4 枚組 (カトルズ) が 14 点です.

カード勝負


12 枚の手札で 12 回のカード勝負を行います.1 回目は 1 番手,2 回目以降は,直前の回の勝者が先手になります.先手は,手札から好きな手札を 1 枚表向きにして場に出します.後手は,先手と同じ印の手札があればそれを,なければ好きな手札を 1 枚出します.先手と同じ印で強いカードを出した方が,その回に勝ちます.勝った人は,2 枚のカードを取り,重ねて伏せ,手元におきます.カードを置くとき,勝ち数がわかりやすいように,直前が縦向きなら横,横向きなら縦にして,十字型を作ります.参考にしたルール記述は,直前のカード勝負に出されたカード以外は見てはいけないと明記しています.David Parlett 氏のルールは,取ったカードを見ていいかどうかに言及していません.

カード勝負の点


現代のルールでは,先手で手札を出したら,1 点を得,相手が先手のとき勝ったら,1 点を得ます.古いルール(19世紀中ごろまで)では,先手は,10 以上の手札を出したら 1 点を得,相手が先手の時に 10 以上で勝ったら 1 点を得ます.

12 回目のカード勝負に勝ったら,1 点を得ます.この点は,先手の点,相手の先手に勝った点とともに取れます.古いルールでも,カードの大きさに関係なくこの点を取れます.なお,David Parlett 氏が引用する 1620 年ごろのドイツの文献は,10 以上で勝たないとこの点も取れなかったとします.現代のルールでは,12 回全勝の時は,この 1 点を認めない人がいます.

カード勝負終了後,相手より勝ち数が多ければ 10 点,12 回全勝ならこの 10 点の代わりに 40 点を得ます.

ルピック (repic) とピック (pic)


1 手の中で,相手が 1 点も得点していないうちに,絵札なしと手役だけで 30 点に達したとき,ルピックといい,その人は 60 点のボーナスを得ます.

1 手の中で,相手が 1 点も得点していないうちに,絵札なし,手役,カード勝負で 30 点に達したとき,ピックといい,その人は 30 点のボーナスを得ます.相手より勝ち数が多いときの 10 点と全勝の 40 点は,ピックには使えません.ルピックでボーナス点を得た場合,ピックにはなりません.現代のルールでは,1 番手は 1 回目の先手で 1 点取れるので,2 番手のピックはありえません.古いルールでも,2 番手のピックは実際には起こりません.

ピックおよびルピックの判定では,絵札なし (カルト・ブランシュ),点 (ポアン),続き (セカンス),組 (トロワとカトルズ),カード勝負の順に点が入り,2 人の得点が確定しない限り,後の点は入っていないと見なします.したがって,1 番手が手役を宣言しなかったか,拒まれた場合,その後の 1 番手の手役と最初の先手の点は,ゲームとは異なる時点で入ると見なされます.例えば,1 番手が点の宣言を拒否され続きを宣言せずに,組を宣言して認められ,最初に手札を出したあとに,2 番手が 2 組の 5 枚続きを申告したら,続きは組より前なので,2 番手のルピックになります.

得点計算


得点するたびに,その手で得た点の合計を言います.1 番手は,宣言しないか拒まれた手役があった後も,手役の点を,宣言時点で数え上げますが,ルピック,ピックの判定は,上記に従います.1 手が終わったら,スコアシートにその手で得た点を書き加え,次の手の得点は,また 0 から数えます.

合計点が目標に先に到達した人が勝ちです.このゲームの古い名前がフランス語で 100 を意味する Cent であることからわかるように,100 点が伝統的な目標です. 150 点,200 点などを使う人もいます.手の途中で,目標に到達したら,その時点で終わりにします.このとき,点は,ピック・ルピックの判定と同じ順序で入るとみなします.カード勝負に入ったら,目標点に到達しても打ち切らずに 12 回のカード勝負を行い,2人とも目標に到達した場合,カード勝負の結果点も合わせた合計点が大きい方を勝ちとします.

普通は,100 点の勝負を 2 回行い,1 勝 1 敗なら,もう 1 勝負します.

17 世紀のピケ


モリエールの作品に登場するピケは,18 世紀以降のルールである古いルールとは,次のような違いがあります.
- 各印 A~6 の 36 枚を使い,手札,山札は 12 枚です.32 枚を使うピケは,17 世紀末に登場しました.
- 1 番手は 1~8 枚を交換.2 番手は,1~残リ枚数を交換します.
- 2 人とも絵札なしなら,どちらも 10 点を得点します.
- 9 枚続きは 19 点です.

ルビコン


ルビコンは,勝負の決め方に関するバリエーションです.

最初の配り手を決めるとき,高いカードを引いた方が,1 番手か 2 番手の好きな方を選び,後は手ごとに交代します.

ゲームは 6 手で,合計点が大きい方が勝ちです.同点の場合,2 手延長します.負けた方が 100 点未満なら,2 人の点の合計+100 点の勝ち,100 点以上なら,2 人の点の差+100 点の勝ちです.

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